観光まちづくりオーラルヒストリー研究

観光地域づくりの初期段階の作業として、資源保有者や管理者の取り組みや想いを、利用したい関係者、連携する関係者と共有していくことが重要だと考える。その方法として、ステイクホルダー個人への十分な聞き取り調査結果を一次データベースとして、個人の営みの積み重ねからなる地域の歴史をとりまとめ、さらに、観光戦略に資するように、図版として、資源の時空間整理や文脈整理を個人の語りに紐付いた形まとめる「観光まちづくりオーラルヒストリー」という調査・編集手法を提起し、試行している。
 オーラルヒストリーとは、文献から歴史を推察するのでなく、地域住民や関係者からの聞き取りによって得られた証言をデータソースとし、それらを整理、統合することによって歴史を紡ぎ出す方法である。本研究では、観光地域づくりの推進に資する編集方法や成果物の作成までを一連の手法としてパッケージ化することを意図して進めている。

オーラルヒストリーと生成AIを活用した対話的復興まちづくり:
和倉温泉の創造的復興を目指して

 
 

 本研究は、 202411日に発生した能登半島地震により、甚大な被害を受けた和倉温泉における創造的復興まちづくりを支援するものとして実施しました。川原研が、各地で実践してきた「観光まちづくりオーラルヒストリー」という調査・編集手法を活用して、和倉地域の生業やまちづくり活動、資源継承を担ってきた人々の足跡や想いを、復興に関わる次世代や外部関係者と円滑に共有することを目的として進めました。
 
 1123人への聞き取り調査と文献や古写真調査を合わせ、個人史・地域史・将来展望の語りの記事と、記憶地図や年表等の図からなる 100頁の「和倉温泉オーラルヒストリーブック」としてまとめています。
まちづくり協議会の地元住民・事業者も聞き取り調査に参画し、また、研究メンバーの川原と清水哲夫先生(観光科学科)が「和倉温泉創造的復興プラン( 2025318日公表)」の策定作業に委員として関与することで、語りと計画の有機的接続を試みました。その結果、オーラルヒストリーブックは復興プランの意図を裏付ける証言資料としての意義を持つことが認められました。
 
 さらに、これらの成果物を追加データとし、応答の工夫を施した対話型カスタム生成AI 「(仮称)和倉温泉復興まちづくりChat」を構築しました。試用実験では、AIとの対話を通じて、地域の人の語りとともに復興プランや地域を理解し、関与のアイデアを具体化することにつながり、復興現場へ関わりたくなるような「関わりしろ」を増やす、あるいは「ハードルを下げる」可能性が示唆されました。
 現在、現場での実装に向けて準備中でです。
建築学会オーガナイズドセッション梗概2025.投稿中

萩焼深川窯史の編纂:文化・芸術資源の価値や産地保全に配慮した観光活用にむけて

 
 

図1 萩焼深川窯史bookの公開範囲別の構成

2019年度は、温泉街振興と「萩焼」窯元振興の連携を目指す地域における窯元集落への調査を通して、この調査・編集手法が、文化・芸術資源の価値や産地の環境保全に十分配慮しながら観光活用を目指すことに対して、どのように活用できるかを研究した。調査企画・インタビュー調査と集落空間調査・編集の各フェーズで具体的成果イメージを提示しながら、5窯8名の作陶家の個々の懸念・ニーズを把握するプロセスを丁寧に踏んだ結果、最終的に、①個人保有資料、②集落内限定共有アーカイブとしての「萩焼深川窯史」、③温泉街との共有、情報発信テキストとしての「萩焼深川窯史<抜粋版>」を取りまとめた。これは、成果資料の情報公開範囲に段階を設け、それごとに掲載内容を調整することで、茶陶として名高い「萩焼」のブランド価値の低下や、窯元集落に観光客が押し寄せないように配慮しつつ、萩焼という一級の地域資源を観光活用することにむけた基礎情報と、相談体制、信頼関係を構築することにつながった。
建築学会オーガナイズドセッション梗概2020.pdf

完全版(左・窯元のみ共有)と抜粋版(温泉街で公開可)の2種類を作成した。

調査風景

旅館で閲覧できる萩焼深川窯史・抜粋版の内容(図1と合わせて参照ください)

高尾山観光まちづくりオーラルヒストリー:地域の資源や歴史を個人の語りと紐付ける

 
2017〜8年度は、行政や民間事業者が多様な事業を推進している本地区において、地元住民等の取り組みや想いを関係者で共有するため、観光まちづくりオーラルヒストリー調査を行った。登山観光地における観光と環境保全に尽力してきた観光事業者と地域住民を対象に実施した。インタビュー記事に加え、個人の語りに多様な地域資源を紐付ける主題図を作成している。観光の季節変動と資源との関係をみる「フェノロジーカレンダー(歳時記)」や「個人史からつむぐ高尾山年表」、「個人史に関連付けた地域資源マップ」などである。本調査結果は、「高尾山観光まちづくりオーラルヒストリー」として冊子化し、報告冊子は「高尾山口駅及び参道周辺整備計画」付録編として行政文書にも位置づけられた。高尾山口駅前の河川護岸改修と隣接公園の整備計画ワークショップで活用している。
→整備経過はブログへ
高尾山オーラルヒストリー論文.pdf
高尾山観光まちづくりオーラルヒストリーBOOKは、こちらで閲覧ダウンロードできます

インタビューをもとに作成した個人史(中段部分)が入った地域の年表

インタビューをもとに地域資源への個人の関心についてのコメントが入ったフェノロジーカレンダー

インタビュー記事

研究一覧

長門湯本温泉観光まちづくりプロジェクト

高尾山地区 観光地マネジメント研究

林業基盤の職人連携による観光まちづくり

ヴェトナム・フエ皇帝陵の構成原理解読とエコツーリズム推進

里山再生✕コミュニティ形成をめざす開発住宅地のエリアマネジメント

テーマ研究一覧

地域観光プランニング〜観光まちづくりの計画技術の体系化

地域観光プランニングカレッジ:観光まちづくり人材教育プログラムの開発

観光まちづくりオーラルヒストリー研究

都市の祝祭空間研究

まちづくり技術を生かした地域ブランディング
 

川原研(大学院)で研究を希望する方へ

  • 受験前に必ず相談しに来てください。(ビデオ会議も可能です)。
  • 観光に関わる簡単な研究計画書をEメールで送付ください。
  • 大学院の合格前に、研究生として受け入れることはしていません(学科方針)。
  • 川原研の学部3年生(後期)、と修士1年生は、行政や民間と一緒に進めるいくつかの観光まちづくりプロジェクトに参画することが必須となります。
  • 受験の詳細は観光科学域HPをご覧下さい。夏試験(8月)、冬試験(2月)があります。